脊髄損傷
「脊髄」とは背骨の中にある中枢神経で,脳から送られる信号を末梢神経に伝え,また末梢から脳に信号を伝える重要な神経です。
脊髄損傷というのは,この神経が損傷することをいいますが,「脊髄」は,「脳」と同じ中枢神経ですから,末梢神経と異なり,一度傷つくと再生しないと言われています。
これは脊髄が損傷して生じた手足の麻痺などの症状は治らない,ということを意味します。
また,重症例では麻痺に伴って排尿・排便障害など,臓器の障害も伴います。
脊髄損傷の分類
脊髄損傷は,損傷部位によって生じる症状が異なります。
完全損傷 | 損傷部位以下の運動と知覚が全て麻痺します。 |
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不全損傷 | 損傷部位以下の運動と知覚が部分的に麻痺します。症状のみられる範囲や症状の強弱も左右・両上下肢でまちまちとなることが一般的です。 |
中心性損傷 | 損傷直後は重篤な四肢麻痺が生じますが,時間的経過とともに症状は下肢から改善し,最終的には両手のしびれや痛み,手指の巧緻性低下といった症状を残す場合が多いとされています。 |
脊髄損傷の後遺障害認定
脊髄損傷の後遺障害認定はMRI画像などで裏付けられる麻痺の範囲と程度によって障害等級が認定されることになっています。
麻痺の種類
脊髄損傷は,損傷部位によって生じる症状が異なります。
四肢麻痺 | 両側の四肢の麻痺 |
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片麻痺 | 一側上下肢の麻痺 |
単麻痺 | 上肢または下肢の一肢の麻痺 |
対麻痺 | 両上肢または両上肢の麻痺 |
脊髄損傷は脊髄の損傷された場所によって生じる麻痺のタイプも異なり,頸髄の損傷では四肢麻痺,頸部以下,胸腰髄部での損傷では対麻痺となります。
なお,脊髄ではなく,馬尾神経という第2腰椎以下の脊柱内の末梢神経が損傷された場合も,脊髄損傷の場合と同様の下肢の運動麻痺(運動障害),感覚麻痺(感覚障害),尿路機能障害又は腸管機能障害(神経因性膀胱障害又は神経因性直腸障害)などが生じますので,この場合は脊髄損傷と同様に扱われることとされています。
麻痺の程度
麻痺の程度については,高度,中等度,軽度の3つに分けられます。
高度の麻痺
障害のある上肢または下肢の運動性・支持性がほとんど失われ,障害のある上肢または下肢の基本動作(上肢においては物を持ち上げて移動させること,下肢においては歩行や立位をとること)ができない程度の麻痺。
- 完全強直またはこれに近い状態にあるもの。
- 上肢においては,三大関節および5つの手指のいずれの関節も自動運動によっては可動させることができないもの又はこれに近い状態にあるもの。
- 下肢においては,三大関節のいずれも自動運動によっては可動させることができないもの又はこれに近い状態にあるもの。
- 上肢においては,随意運動の顕著な障害により,障害を残した一上肢では物を持ち上げて移動させることができないもの。
- 下肢においては,随意運動の顕著な障害により,一下肢の支持性および随意的な運動性をほとんど失ったもの。
中等度の麻痺
障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性が相当程度失われ,障害のある上肢又は下肢の基本動作にかなりの制限があるもの。
- 上肢においては,障害を残した一上肢では仕事に必要な軽量の物(概ね500グラム)を持ち上げることができないもの又は障害を残した一上肢では文字を書くことができないもの。
- 下肢においては,障害を残した一下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの又は障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であるもの。
軽度の麻痺
障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性が多少失われており,障害のある上肢又は下肢の基本動作を行う際の巧緻性および速度が相当程度失われているもの。
- 上肢においては,障害を残した一上肢では文字を書くことに困難を伴うもの。
- 下肢においては,日常生活は概ね独歩であるが,障害を残した一下肢を有するため不安定で転倒しやすく,速度も遅いもの又は障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの。
立証ポイント
脊髄損傷による後遺障害の等級認定は,概ね,以下の要素を考慮して行われていますので,これらをいかに的確かつ客観的に証明することができるか,が重要になってきます。
- MRI画像などの画像所見
- 病的反射の有無などの神経学的検査所見
- 病状の経過
- 麻痺の範囲(四肢麻痺,片麻痺,対麻痺,単麻痺)
- 麻痺の程度(高度,中等度,軽度)
- 介護の要否,程度
障害の程度
【自賠法施行令別表第一,第1級1号】
「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの」
以下の症状が該当します。
- 高度の四肢麻痺が認められるもの
- 高度の対麻痺が認められるもの
- 中等度の四肢麻痺であって,食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
- 中等度の対麻痺であって,食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
(例)
第2腰髄以上で損傷を受けたことにより両下肢の高度の対麻痺,神経因性膀胱障害および脊髄の損傷部位以下の感覚障害が生じたほか,脊柱の変形等が認められるもの。
【自賠法施行令別表第一,第2級1号】
「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの」
以下の症状が該当します。
- 中等度の四肢麻痺が認められるもの
- 軽度の四肢麻痺であって,食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
- 中等度の対麻痺であって,食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
(例)
第2腰髄以上で損傷を受けたことにより両下肢の中等度の対麻痺が生じたために,立位の保持に杖又は硬性装具を要するとともに,軽度の神経因性膀胱障害および脊髄の損傷部位以下の感覚障害が生じたほか,脊柱の変形が認められるもの。
【自賠法施行令別表第2,第3級3号】
「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの」
以下の症状が該当します。
- 軽度の四肢麻痺が認められるものであって,食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要しないもの
- 中等度の対麻痺であって,食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要しないもの
【自賠法施行令別表第二,第5級2号】
「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」
以下の症状が該当します。
- 軽度の対麻痺
- 一下肢の高度の単麻痺
【自賠法施行令別表第2,第7級4号】
「神経系統の機能または精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの。一応労働することはできるが,労働能力に支障が生じ,軽易な労務にしか服することができないもの。」
以下の症状が該当します。
- 一下肢の中等度の単麻痺
(例)
第2腰髄以上で脊髄の半側のみ損傷を受けたことにより一下肢の中等度の単麻痺が生じたために,杖又は硬性装具なしには階段をのぼることができないとともに,脊髄の損傷部位以下の感覚障害が認められるもの
【自賠法施行令別表第二,第9級10号】
「神経系統の機能または精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの。通常の労働を行うことはできるが,就労可能な職種が相当程度に制限されるもの。」
以下の症状が該当します。
- 一下肢の軽度の単麻痺
(例)
第2腰髄以上で脊髄の半側のみ損傷を受けたことにより一下肢の軽度の単麻痺が生じたために日常生活は独歩であるが,不安定で転倒しやすく,速度の遅いとともに,脊髄の損傷部位以下の感覚障害が認められるもの
【自賠法施行令別表第二,第12級13号】
「局部に頑固な神経症状を残すもの。」
以下の症状が該当します。
- 運動性,支持性,巧緻性および速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの
- 運動障害は認められないものの,広範囲にわたる感覚障害が認められるもの
(例)
軽微な筋緊張の亢進
運動障害を伴わないものの,感覚障害が概ね一下肢にわたって認められるもの
脊髄損傷になった場合の損害賠償
1 脊髄損傷による症状と後遺障害等級
脊髄損傷による症状について後遺障害等級として認定される可能性があるのは、1級、2級、3級、5級、7級、9級、12級となります。
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要する場合には、1級1号、
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要する場合には、2級1号、
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができない場合には、3級3号、
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができない場合には、5級2号、
神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができない場合には、7級4号、
神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限される場合には、9級10号、
局部に頑固な神経症状を残す場合には、12級13号、
が認定されることになります。
2 後遺障害慰謝料は後遺障害等級によって異なる
後遺障害慰謝料は、基本的には、後遺障害等級によって異なります。
たとえば、1級は2800万円、2級は、2370万円、3級は1990万円、4級は1670万円、5級は1400万円、6級は1180万円、7級は1000万円、8級は830万円、9級は690万円、10級は550万円、11級は420万円、12級は290万円、13級は180万円、14級は110万円、が目安になります(いわゆる赤い本)。
保険会社からは相場より低額な自賠責基準での示談金を提案されることがありますので、示談前には、交通事故に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
3 後遺障害逸失利益も後遺障害等級によって異なることが多い
後遺障害逸失利益は、基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数で算定することが一般的です。
労働能力喪失率は、後遺障害等級によって異なることが一般的です。
1~3級は100%、5級は79%、7級は56%、9級は35%、12級は14%となることが一般的です。
そのため、後遺障害等級が後遺障害逸失利益の金額に大きな影響を与えることが多いです。
4 脊髄損傷でお悩みの方へ
自賠責保険会社に対する後遺障害等級認定申請は、基本的には、書面審査になるため、画像所見の有無やその程度、後遺障害診断書や脊髄症状判定用などの医療証拠の記載内容などがとても大切になります。
医療証拠の内容が不適切である場合には、適切な後遺障害等級が得られないことがあります。
そのため、日々の治療の中で気をつけるべきことなどを早い段階で知っておくことが大切です。
脊髄損傷でお悩みの方は、できる限り早い段階で、後遺障害に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。