遷延性意識障害
交通事故による頭部外傷によって,被害者が遷延性意識障害になってしまうことがあります。
この「遷延性意識障害」とは,一般的には呼吸や循環,その他の自律神経機能は保たれているものの,運動・知覚機能や知能活動がほとんど欠如した状態と定義され,原因としては脳血管障害,外傷,中毒,無酸素症,一酸化炭素中毒などで生じるとされています。
なお,日本脳神経外科学会で定めた基準では,以下の1~7に該当する状態のことを「遷延性意識障害」とよんでいます。
- 自力移動不可能
- たとえ声を出しても,意味のある発語は不可能
- 簡単な命令にはかろうじて応じることはあるが,それ以上の意思疎通は全く不可能
- 眼でかろうじて物を追うことがあっても,それを認識することは不可能
- 自力摂食不可能
- 糞・尿失禁がある
- 以上の状態が,治療にかかわらず3カ月以上続いていること
この「遷延性意識障害」の定義に該当する状態であれば,通常,自賠責保険における後遺障害認定では「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの」として,自賠法施行令別表第一第1級1号が認定されます。
遷延性意識障害の賠償上の問題点
「遷延性意識障害」は後遺障害の等級が認定された後,損害賠償額の算定の際に様々な問題があります。
加害者(実際にはその保険会社)からは,「寝たきりの状態で長生きはできないのだから,介護費用は平均寿命を基に計算すべきではない」とか,「寝たきりの状態では,食費や被服費等の生活費が安く済むのだから,その分は損害から控除すべきだ」など,無神経な主張がされることが多くあります。
余命年数の問題
一部の裁判例を除けば,多くの裁判例で遷延性意識障害で寝たきりの原告の余命年数は健常者の平均余命と同じと認定し,この間の介護費用を損害として認めています。
したがって,加害者・保険会社から,被害者の余命年数について制限するような主張がなされたとしても,寝たきりの被害者でも健常者の平均余命まで生存を認定した多数の判例を引用して,反論することが重要です。
生活費控除の問題
生活費などの控除についても,通常,遷延性意識障害で寝たきりとなっている被害者の場合,流動食で栄養を取っていますので,加害者・保険会社からすると,食費については流動食として病院における治療費に含まれ,被服費,教養費,交通費,通信費,交際費などはほぼ支出を要しないはずだと主張してくることが多いです。
しかし,この点についても,多くの裁判例では生活費の控除を認めない方が多数です。
ですから,加害者,保険会社から生活費の控除を主張されたとしても,生活費を控除しなかった多数の裁判例を引用し,反論する必要があります。
慰謝料の問題
遷延性意識障害で寝たきりとなってしまった被害者の損害賠償請求においては,場合によってですが近親者に固有の慰謝料請求が認められる場合があります。
近親者の慰謝料というのは,被害者が死亡したり死亡に匹敵する程度の精神上の苦痛を受けた場合に,被害者自身の慰謝料の他に近親者固有の慰謝料が認められるものです。
これも多くの裁判例がありますので,賠償額の算定の際にはこうした裁判例を基にしっかりと主張していく必要があります。
遷延性意識障害の後遺障害
1 遷延性意識障害について
交通事故によって脳が損傷を受け、昏睡状態や意思疎通が全く出来なくなってしまった状態のことを、遷延性意識障害といいます。
いわゆる植物状態のことです。
現代の医学では、残念ながら、この障害に対する効果的な治療方法は確立されていません。
この状態になってしまうと、食事や排泄など身の回りのことは全て、24時間365日にわたる介護が必要となります。
そのため、被害者の介護を行うご家族には、精神的、肉体的、経済的に大きな負担が生じることになってしまいます。
2 後遺障害等級
自賠責保険において遷延性意識障害と認められると、「神経系等の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」(自賠法施行令別表1第1級第1号)に該当すると認定されます。
この等級は自賠責保険で認定され得る最も高い等級であり、自賠責保険からは4000万円が支払われることになります。
3 賠償請求する上での問題点
相手方保険会社に損害賠償請求する上で問題点となることが多いのは、将来の介護費です。
遷延性意識障害になってしまった場合には、将来にわたって介護が必要になるので、多額の介護費が必要となります。
裁判所は平均余命まで将来の介護費を認定する傾向にありますが、具体的な必要性については、被害者側で主張・立証しなければなりません。
加害者側の保険会社からは、「植物状態にある場合には余命が短いから将来の介護費用も少なくなる」などの不合理な主張がされることもあります。
被害者側の主張・立証が不十分だと、得られる賠償金が大幅に減ってしまう可能性もありますので注意が必要です。
4 弁護士にご相談ください
事故によって大きな被害を受けたにもかかわらず、適切な賠償金を得られないというのはあまりにもつらいことです。
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